〖創作日記〗山に育つ絹の一年 | A Year of Silk Raised in the Mountains

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天蚕

春になると、天蚕の季節が始まります。
晩夏に産みつけられた小さな卵が冬を越し、春になると孵化して、また新しい一年が始まります。

クヌギの葉を食べ、風や光の中で大きくなり、やがて葉のあいだに繭をつくる。
毎年その姿を見ながら、山で育つ絹の時間を記録しています。


この土地に残る天蚕の景色

天蚕のためのクヌギ畑
天蚕のためのクヌギ畑

この地域では、かつて何か所でも天蚕飼育が行われていたそうです。
その名残のように、クヌギがまとまって植えられている場所を、今でも見かけることがあります。

クヌギ畑を見ると、そこにはただ木があるのではなく、昔から続いてきた営みの気配が残っているように感じます。


小さな卵から、葉の色に近づいていく

孵化したばかりの幼虫は、驚くほど小さく、頼りなく見えます。
けれど、葉を食べ、脱皮を重ねるたびに、少しずつ山の色に近づいていきます。

三齢頃になると、葉に紛れるような姿になり、見つけるのが難しいほどです。
五齢になると食欲もいっそう増し、繭をつくる時間が近づいてきます。

この変化を見ていると、天蚕はただ大きくなるのではなく、少しずつ周りの景色の中へ入っていくように見えます。


葉のあいだに残されるもの

葉の裏につくられた天蚕の繭
葉の裏に繭をつくる
天蚕の成虫
成虫

やがて天蚕は、葉のあいだに繭をつくります。
山の中でその黄緑色の繭を見つけると、毎年のことでも、少し立ち止まって見てしまいます。

成虫が羽化し、交尾し、卵を残すと、その年の天蚕の季節は終わりに近づきます。

一年の終わりが、そのまま次の一年の始まりになっている。
翌春まで動かない小さな卵を見ながら、また次の季節を待ちます。


繭から糸へ

天蚕の繭は、すべてが同じように糸になるわけではありません。

長く引くことのできる部分は製糸され、引きにくい部分は工房で紡ぎ糸になります。

引けるところだけが価値なのではなく、引けないところにも別の表情がある。
その違いを残したまま布の中へつないでいくことも、私たちの天蚕との関わり方のひとつです。

山で育った繭が、糸になり、やがて布の一部になる。
一年を通して天蚕を見ていると、完成した布の奥にも、その前にあった長い時間が見えてきます。


天蚕をもっと知る

天蚕という蚕や、その糸の特徴については「天蚕とは」でご紹介しています。

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